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雲の上から奥穂高岳【山岳登山記〜その2】

登山アレコレその2。

iPhone紛失話はここ。

 

 順調に山道を進む。天候も悪いとはいえ森の中なら気にならない程度だ。

モンスターハンターに出てきそうな湿地帯、猿の親子、ウグイスの鳴き声、朝霧。

俺が山に求めていたのはまさしくこれだ…!!

テンションは上がる一方。ポケットに入れたiPhoneで写真を撮りながら進む。

急勾配な山道を登り雲の中へ突入。そして岳沢小屋に到着。この時10時。

 

雨ガッパを脱ぎ、小休憩。まだ電波が繋がっていたのでTwitterなぞを眺めていると小屋の主人が話しかけてきた。

『そのオモチャみたいなカッパで奥穂登るの?』

 

「・・・はい。」

 

『そんなんで行くと強風で吹っ飛ばされて、体温持ってかれてすぐ死ぬよ??』

 

「!?」

 

主人はそれだけ言って去っていった。

まさか本当に山舐めんなよ??的な煽り文句が飛んでくると思わなかったので、乾いた笑いしか出てこない。

「いるよなーいいたいことだけいってどうにもしない奴…w」

と思いながら内心は、マジかマジか死ぬのか、という焦りが満ちる。

 

死ぬと言われたって、ここまで3時間かけて登ってきているのだ。森林限界の標高を超え、ここからが本当の山、というところで下山するわけにもいかない。

オモチャみたいなカッパで登頂してやるよ!!と自分を奮い立たせて、いざ山頂へ向かう。まずは紀美子平という奥穂高岳前穂高岳の分岐点を目指す。

 

 

前述の通り、ここからが本当の登山だった。

 

四肢を這わせて登る登る。

脚を滑らせたら本当に死が見える。

呼吸が浅くなり鼓動は早まる。

恐怖を打ち消すために脳内でアドレナリンがドバドバ出る。

登山とは字のごとく、『山道を歩く』のではなく、本当に『山を登る』ものなのだ。*1

 

ほぼ垂直にかけられた鉄のハシゴ。ほとんど崖に打たれた杭から垂れる鎖。

中学登山のときは脚を滑らせたらちょっと危ないぞこれ、っていう箇所が1箇所だけあったけど、今回はそれが4〜5時間続いた。写真を撮るヒマもない。

脳内麻薬もそろそろ限界、霧と小雨で視界が悪く、体温も奪われる。身体が震えだす。本当に死を覚悟するがまだ紀美子平に着かない。ここまで来たら戻るほうが危険なのだ。もはや身体に鞭打って進むしかなかった。

嘘のように長い鎖に直面し、あーもうこれ超えて紀美子平じゃなかったら死ぬんだ、とか思っていたら本当に着いた。

 

九死に一生を得るとはまさにこのこと。

遅めの昼食で体温を上げようと試みる。が、駄目ッ…!!*2雨は止まない。雨ガッパは案の定ボロボロ。雨で張り付いた衣服。靴下もびしょ濡れ。動いてないと体温が上がらない。

 

俺本当に死ぬかも…と愚痴*3をこぼしながら渡邉氏にレインウェアの下だけ借りる。

あぁ本当のレインウェアってすげェンダ…と思いながら自分の不用意さと小屋のおっちゃんへの悪態を恥じた。

 

先の通り、もう登るしかないのだ。いざ奥穂高岳山頂へ!!何度目かの自分を奮い立たせる。

やっとこさ気持ちが正常に戻ってきて余裕が出来たので出発の前に景色の写真を撮ろうと試みる*4

 

ポケットからiPhone取り出そうとする。

・・・ない。iPhoneがない。

どこかにしまった記憶もない。

 

 

この時点でiPhoneを紛失したことに気づく。前述の湿地帯とか猿の写真を貼らないのはまぁそういうこと。

やっちまったと思いながらも、不思議とすぐに諦めがついたのは山で役に立たない携帯電話より自分の生存のほうが大事だと本能が感じとったからだろうか。

 

テンション高めのチクショーを繰り返しながら*5奥穂高岳山頂を目指した。 

*1:この少年誌的例え。

*2:福本伸行イズム。

*3:結構冗談でもなんでもない。

*4:といっても霧で見えたもんじゃない。

*5:アドレナリンを出さないと死ぬ