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羽をくれた人 #リズと青い鳥 感想

京アニの映像表現は常に一歩先を行きますね。

山田尚子監督作品「リズと青い鳥」の感想。ネタバレあり。
映画「聲の形」の映像やばかったよなという人は観て損はない、いや観るべし。

観てない人は自分の意志でdisjointしましょう。


『リズと青い鳥』ロングPV

結論から述べるとめちゃくちゃ良い。

テレビシリーズから大きく変更したキャラデザは、いい意味でアニメ的な表現が淡白になっているし、前作での久美子・あすかは部活という「集団」における二人、だったが、今作はもっとミクロな関係。「中学から同じ部活に所属していた二人」の関係性に焦点が置かれている。

そういった二人の、淡白で、行間たっぷりのシーンの積み重ねだとか、時間の流れによって浮き上がる思春期特有とも言える「ズレ」(要は進路)が痛々しい。

なんてことはない、言ってしまえば「楽器が飛び抜けてうまかったやつ」と、「そうじゃないやつ」が仲良かったという舞台さえあれば、誰にでも生じるズレなんですが、そこに「リズと青い鳥」という、まさに今の状況を抽象化したような童話を同時に語る上手さですよね。

「私が青い鳥だったら、会いたくなったらすぐに返ってくるのになー」なんていう、とびきり自由に振る舞っていた希美の発言*1全て反転するわけですから。



響け!TVシリーズで、夏休みに校舎の日陰で練習するシーンの映像表現には度肝を抜かれたが、

d.hatena.ne.jp

今作ではまた違った表現をしているように感じた。全体的に淡く白んでいるような映像だったように感じる。こんなに雰囲気や行間のある始まり方があっただろうか*2



映像のみならず、大枠の舞台装置である吹奏楽で魅せる演出*3を作れるのは、他の商業作品とは一線を画するポイントだと思う。BGMもノスタルジーを感じるアコースティックなエレクトロっぽくて良い(トクマルシューゴとかI am robot and proudっぽい)。毎回思うがこの辺は吹奏楽やってた人の感想も聞いてみたい。

山田尚子女子高生の脚好きすぎ問題

脚はもはや山田尚子の象徴だと思う。

それはズンズンと進んでいく希美の歩調であったり、追いかけるみぞれであったり、脚や靴下、その歩き方で関係性さえ描く。映画 けいおん!!のラストシーン、橋をかける4人の脚のカットで終わるのが印象的ですがやっぱり何かこだわりがあるんでしょうね。

唯は黒タイツとか、もこもこの靴下の後輩とか、そういう制服と別の部分で差別化できるところにJK性を感じるのはスゴくわかる気がする。

大衆的か普遍的か

全体的に、受け手のリテラシーが問われる作品のようにも感じた。

あえてアニメ映画と比較するならば、新海誠のように、こんな僕等の出会いは運命に違いない!!と感じさせる出会いの物語(もしくはそれが時間の流れによって薄まる侘しさ)、であったり、細田守のように家族や、その絆の力であったり、ー誤解をおそれず言えばー 結構大衆的だ。

対して、山田尚子監督作は、普遍的ではあるが劇的ではない。ずっと続くかのように感じる友情とか、幼なじみとか、過去の精算とかそういったものと、ついに向き合わなければいけない、答えを出さなければいけない。そんなテーマが多い。

ある種日常系*4というTVシリーズへの解答なのかもしれない。

今作も、中学からの同級生と向き合う時、のようなものをテーマにしているが、そこに「世界を救う」であるとか、「大切な誰かを守る」のような必然は無い。淡々と関係性を描いていく。だからこそ普遍性があるし、時間の描き方もめちゃくちゃ贅沢だ。


まとめ

ぶっちゃけ要所要所を除いて、情報の多いシーンは少ない。でも最後にはすげぇもんを観たという実感が残る。

例えるなら、とても精細に出来たうっすーーーいガラスのような映像が絶え間なく流れ続ける。「うわーこのガラスめっちゃ薄いわ、すげー良く出来てるじゃんそれだけでやばいわ…」と思ってたらその薄いガラスが全部積み重ねてみたら立体を成し、「スノードーム的に中に何か浮き上がってるわ…しかも裏側から観るとまた趣が変わるわ…」的な映画でした(的なとは)。

たとえなんてのは所詮たとえであって、レビューも所詮はレビューです(全否定)。言葉遊びでしかないので映画観ましょう。大人の語彙力とか言ってないで、俺たち大人はそれをそれと示せるものだけを示していきましょう。


*1:そういうとこだぞ!と言いたくなるシーン。でもそれは高校生の視線でこそ残酷だが、もう少し視点が広くなれば意外と正しい

*2:反語

*3:1期の名シーンオーディション回、一方はプロ、一方は音楽科の一番うまい子を起用したというディレクションを聞いてたまげた

*4:萌えサザエさん時空