予防線

予防線が見えなくなるまでつづける

白いプール

つい最近のことだけど、今年の4月以前に住んでいたアパートの最寄で、かつ1番利用していたコンビニに強盗が押し入ったというニュースを見た。そういえば住んでいた頃、深夜にパーカーを被った異様な雰囲気の人を見かけたことがあったような気がする。その人と強盗はイコールじゃないのだろうけど、事実、働いていた近所の酒屋の近くの小道で痴漢があったりと、あまり治安の良い場所ではなかったのかもしれない。

現実的な怖さは当たり前のように身近にありますねという話なんだけど、こういったことに関して俺は昔からどこか運が悪い。
冷や汗をかくような話が一つある。
 
自分がまだ保育園の頃の話。
まだ天然パーマでない頃の保育園児僕は山を登った先にある保育園に通っていた。車で登るにも大変な坂を歩いて登ったその先にあり、自然に囲まれて〜と言えば聞こえは良いが、要するに片田舎の山奥といったほうが正しい。規模も小さく、年少組から年長組まで、合わせて10人も居なかったくらい。
少し珍しかったことと言えば、保育園に併設してお寺があったことくらい。そのお寺の住職さんが園長先生も兼ねていた。
決して広い敷地の保育園ではなかったが周囲が自然で溢れていたので少しだけ敷地の外に出れば遊びに困ることはなかったように思う。
 
ある時、いつものように保育園の近くの草地で遊んでいた時のこと、青緑の金網の向こう、長く生い茂った草に隠れるようにして白く低い建物を見つけた。
1mほど地面より凹んでいる、水を貯められそうな部分と、小さな採光窓があるだけで、大人数人が入れる程度の小さな建物。幼い頃の目線なので当てにはならないが、15m四方ぐらいの敷地にあったと思う。
どこもかしこも真っ白いという点だけを除けば、小学校のプールとそれに隣接された更衣室のそれに近かった。当時はヘンテコな場所があるなあと思ったくらいで、周りの大人にそれが何なのか聞いたことはなかった。結局、今の今まで理由はともあれ取り壊されなかったプールなのだろうと思っていた。
 
そんなことも忘れて社会人になった盆休みのある日。実家に帰省していた自分は、唐突に保育園の近くの真っ白なプールのことを思い出した。せっかくの機会なのでそのことを母に尋ねた。
 
「ねえ母ちゃん、俺がまだ保育園の頃なんだけど、保育園の近くにプールみたいな白い建物あったの覚えてる?あれって何だか知ってる?」

「ああ、アレね。知ってるよ。あの建物は戦時中の頃の建物で、いわゆる処刑場だったんだよ。」
 
プールのように凹んだ部分はおそらく絞首刑用のもの。小さな窓の付いた建物、そして保育園に隣接されたお寺。全てに合点がいき背筋が凍った。